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本やアイドルが主成分

こんな本を読んでました ノンフィクション編

 読んだ本の感想を書き留めておく気力と体力がない間に読んだ本のことを今更残す。

『中国のロジックと欧米思考』天児慧

 最近民主主義の危機、みたいな話をよく聞くけど、知識の足りない自分のシンプルな疑問として、国が豊かになって国民の生活も豊かになるにつれて、普通なら国民は民主主義的な国家を求めるようになるのではないのか?と感じていたので読んだ。

 中国では儒教思想の「先知先覚論」により政治の主体は共産党幹部にあって、国民は「不知不覚者」として優れた指導者に統治されることで秩序が維持されるという世界観らしい。欧米思考がボトムアップ型で制度を中心にした秩序観を持っているとしたら、中国思考はトップダウン型で人間関係を中心にした秩序観を持っている。

 確かに前者だと何をするにしても法や手続きに則る必要があるために対策をうつのに時間がかかるし、個人を強く制約することができないけど、後者であればその難点をクリアしやすいから結果として効果を上げやすい、みたいな場面があるのは、近年のコロナ対策でも一理あるかもな~と思った。だけど後者を採用するならトップに本当に善良で優秀な人がつかなければまずいわけで、でも「善良」の基準は人それぞれで誰もが誰かにとっての「善良」だからこそ、そこは法、制度、ルールで割り切った方が合理的な気がするけど、そういう政治思想ではないということなんだな。面白かった。

 

中国経済の謎 なぜバブルは弾けないのか?』トーマス・オーリック

 不動産を始めとした設備投資とそれにかかる融資とを前提にした経済成長の拡大が少し鈍くなってきたらヤバイ!と思って国ががっつり介入して過剰設備を削減しにかかる中国のダイナミックさが、読んでいて面白かった。破綻しそうで破綻しないその危うさをカバーするだけの経済規模、人口と、適正な手続きを多少無視してでも強引に政策の舵を切れる一党独裁体制があるということが主張されていたけど、少子化は進んでいるし、今後どうなるのかなぁと興味深い。

 

『物価とは何か』渡辺努

 ものすごく端折ってざっくり言うと物価は市井の人々の予想に基づいて決まるという話かと思ったけど、確かに今「日銀は物価目標2%って一生同じこと言ってるな~」と思うだけで本当に物価がすごく上がると市井の人々には予想されてないからこそ、本当に物価が上がったら買わない、あるいは他のものを買うのを控える(その結果その商品の需要が減って値段が下がる)から、結果的に物価全体としてそう上がらない、ていうことが起こっているのかも、と思うと理解できた。あと物価と賃金の話は不可分というか、結局は可処分所得によるんじゃないかとも思ったけど、もしかしたらそれも人々の予想の方向によるのかもしれない。賃金が上がる予想ができたら、物価が上がっても許容して買うのかな。経済知識も乏しいので、分からん…。

 

『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?国会議員に聞いてみた。』和田靜香

 フリーライターでアルバイトをしている著者が国会議員の小川淳也さんのもとへ殴り込み、侃々諤々と対話しているのを収録した本。必要な社会保障費が増えるにつれてじわじわと税率も上がっていく中で、特に著者のような現役世代で子がいなかったりする人が何のために税金払っているんだっけ?自分が年とった時には恩恵を受けられるの?などと思ってしまうことがあるのだと思うし、気持ちは分かるけど、そうした素朴な疑問に真摯に答えて説明して同意を得る、あるいは落としどころを見つけるのが政治家の仕事であって、とにかく「話す」ことが一番の仕事なんだなと思った。

 

『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した』ジェームズ・ブラッドワース

 ずっと積んでいたのだけど、世間で底辺の職業ランキングとかいう醜悪なランキングが話題になった時に取り出して読んだ。この本はイギリスで著者がまさにそうしたランキングに乗っている仕事に取り組んだ潜入レポートになっている。イギリスがブレグジットに至ったミクロな要因、その空気感が伝わる一冊。

 中でも面白かったのが、ウーバーはドライバー過剰の状態こそが「いつでもすぐに乗れる」という価値を顧客に提供しているのであって、実際に供給過剰している間ただひたすらに顧客を待って時間を消費し、何の利益も生まないことの損失は、ウーバーが雇用しているわけではない自営業者のドライバーだけが被る、というビジネスモデルであること。経済知識の浅い私は企業にとって需要と供給が一致していることこそ良いのであって、供給過剰は価値が下がるから悪いことだという思いがあったけど、それをギグワーカーという雇用形態によって逆手に取っていて、(誤解を恐れずに言うと)めっちゃ頭良い…!!て興奮した。それも含めて、ウーバーはビジネスモデルのイノベーションだったんだな…と遅ればせながら知った次第(もちろんこのビジネスモデルによる弊害があって、それが本書で書かれている話)。

 

『鉄砲を捨てた日本人 日本史に学ぶ軍縮』ノエル・ぺリン

 確かにその観点で考えたことはなかったな、面白そう!と思って読んだけど、軍縮についての専門書というよりはむしろ反戦メッセージ本だった。同じテーマで他に書かれている本があれば教えてほしい。

 

『人は2000連休を与えられるとどうなるのか?』上田啓太

 この本はタイトルの通り、仕事を辞めた著者が2000連休を過ごすうちにどうなっていったかというドキュメント。お昼からお酒飲んで最高~!のターンから、ネットばかり見て単調すぎる…飽きてきた…ていうフェーズに至るまでは結構すぐで、その後に生活を立て直そうと思い立って行動的になってみたり、暇をつぶすために今まで自分が摂取したコンテンツを全部データベース化してみたりするのがおかしい。ただそこからコンテンツだけでは時間が潰せなくなってきて、いよいよ今まで自分が出会った人間までをもデータベース化しだした頃から狂気じみてくる。だんだんと肉体感覚や思考が死ぬほど尖って哲学の極みまでいく様が壮絶で、最後は笑えなくなってくる。私は2億手元にあっても2000連休には耐えられないだろう。

 

『どうして男はそうなんだろうか会議』澁谷和美、清田隆之編

 非モテ、ホモソサエティ、ホモファビア、ミソジニーなど多岐にわたった話題について、武田砂鉄さんなどいろいろな人と対談している本。前に上田千鶴子さん、鈴木涼美さんの『限界から始まる』を読んだけど、それとも共通しているなと思ったのは、女も男も社会的な要因によって自分の被害を語れない人がいるということ。

popeyed.hatenablog.com

 

『映画を早送りで観る人たち』稲田豊

 話題作だから読んだ。私は早送りで観ようと考えたこともないけど、早送りして観てしまっては作品を味わえないとか余韻が残らないとか考察できないとか、そんなことを早送り派に言っても別に響かない。そもそも映画を観ることの目的が鑑賞することではなく情報を取得することにあるか、あるいは鑑賞を目的にしたとしても何を鑑賞するかの選択を失敗したくないからひとまず早送りしながら試し見する。この「失敗したくない」という心理は分からなくもないのだけど、選書と同じで、その選球眼は場数を踏むことで自分の好みがはっきりしてきて、いずれ本編を観る前からなんとなく嗅ぎ分けられるようになって磨かれる気がする。だけどコンテンツ過多だとその場数を踏む時間もないのだろうし、別に磨く必要性も感じてないかもしれない。

 面白いトピックはいくつかあったけど、昔レンタルDVDショップで借りて観ることが当たり前だった時代は、新作のレンタル料が高くて旧作は安かったけど、今の動画配信サイトでは新作ほど見放題で、往年の名作など旧作は見放題ではない、という話は、今まで全然気が付いてなかった。確かに。動画配信サイトでは新作映画の情報を取り入れたい人の層がメインターゲットであり、その人たちのニーズを満たすためには新作ほど見放題でなければならず、それによって多数からストック収益を長期間得続ける。一方で、例えば気になった監督や俳優の作品は過去作から全部観たいなど、体系的に映画を観たがる人は鑑賞が目的の映画好きであり、多少のお金を払ってでも観るから、そうした層からサブスク利用料以外にも別途お金を取るという仕組み。こういう上手いビジネスモデルの話、もっと知りたい。

 

『マナーはいらない 小説の書きかた講座』三浦しをん

 短編の構成や一人称小説/三人称小説のメリットデメリット、本文中の一行空きのコツや時制についてなど、かなり実務的で実用的な著者流メソッドが書かれている。普段小説を読んでいる時にあまり意識してなかったけど、それはプロの作家がそのあたりが上手いから意識せずとも読めているんだろうな。

 

『短歌と俳句の五十番勝負』穂村弘、堀本裕樹

 老若男女、いろいろな職業の人が出したお題に対して、各人が短歌、俳句を提出する五十番勝負。俳句に馴染みがなかったのだけど、それって季語なんだ!?ていう発見が多くて面白かった。「夜食」は秋の季語、とか。オールシーズンだと思っていた。

 

『ぼくはこんな本を読んできた』立花隆

 読んできた本のジャンルの幅が半端じゃなく広い。それがちゃんと血となり肉となっていてすごいな~と思った。私は読んだ端から忘れていくので…。

 

 ノンフィクション編と銘打ったからにはフィクション編も書き留めておこうと思っていたけど、10冊ちょっとあって体力が尽きた。自分の記録のために残しておきたいのに。