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本やアイドルが主成分

K-POPから始まる数珠繋ぎ読書

 BTSにハマった。

世間の例にもれず去年『Dynamite』を聴いてMVを見てしまったが最後、転がり落ちるようにしてハマってしまった。ハマってみたらBTSにまつわるコンテンツの豊富さに驚いた。公式がリリースしているもので、無料で見られるものの多いこと多いこと…新規ホイホイ沼である。

 ところでこれまで私が知っているK-POPとは、東方神起やBIGBANG、少女時代やKARA、TWICEの日本語曲がほとんどで、K-POP=フックの強いメロディ、特徴的なワンポイントダンスだった。今初めて本格的にK-POPグループにハマったタイミングで、今一度K-POPとは何だ?と興味を持ったので、まず金成玟K-POP 新感覚のメディア』を読んだ。

 本書は主にK-POPという音楽ジャンルの音楽史を扱っている。元々、視覚的な特質(スター性)や親しみやすい魅力が協調される日本型アイドルと、歌唱力やパフォーマンス力を持った憧憬の対象であるアメリカ型アイドルの融合から始まったK-POPは、そこからブラックミュージックと出会い、ラップヒップホップを盛んに取り入れることで、よりアメリカ型へと舵を切っていく。ただそれだけでは爆発的に売れることはなく、何より大事なのは「韓国的な感覚」との接合だそうだ。その「韓国的な感覚」とは例えば韓国語ラップや韓国歌謡の要素などもあるが、より特徴的だなと思ったのは「恨」(ハン)の感情が歌われることが多いということだ。そこには歴史的な背景だけでなく、例えば競争社会が激化している現状や就職率の低さに苦しむ若者の鬱憤など、いろいろなものが含まれていると思われる。そうした「恨」の感情を共有する共感のファンダムがK-POPを支えている一つの要因なのかもしれない。

 

 それにしても昨今のK-POPブームはすごい。むしろ今やブームではなく、かつてはどちらかというとサブカルチャーであったK-POPが一ジャンルとしてメジャーに乗り出している感すらある。初めてBTSのMVをYouTubeであれこれ見始めて気が付いたが、再生回数1億超えのK-POPアイドルがたくさんいて、コメント欄には多言語のコメントが並ぶ。K-POPはなぜこんなにも人気があるのか気になったので、次に田中絵里菜『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』を読んだ。

 本書はK-POPアイドルが生み出されるシステムや楽曲制作、プロモーションのあり方、ファンとの関係など、いわゆる実務的なK-POPの運用について知ることのできる一冊。

 やはり韓国は外需の国であるため、アイドルも最初から世界へ進出することを前提に生み出されている。だからこそ彼ら彼女らは歌、ダンスなどの過酷な練習を通してスキルを格段に上げていくだけでなく、言語の勉強なども欠かさない。公式動画に複数言語の字幕がついていることはもちろん、V LIVEという動画サイトではファン自らが字幕を付けることもでき、どこに住んでいてもK-POPアイドルの活動のほぼ全てが見られると言っても過言ではない。K-POPコンテンツがそのようなバリアフリーな環境であるため知人へも薦めやすいし、SNSなどでシェアもしやすい。こうした戦略がファンの分母を増やすことに寄与しているようだ。 

 またBTSにハマって驚いたことの一つにファンの熱量の高さがあるのだけど、本書でもそうした「ファンダム」について取り上げられている。本書の中でK-POPファンは消費者ではなく有権者である、という記述があり、そこが特に印象的だった。ファンは積極的なシェアや投票行為、応援広告など様々な方法でアイドルを担ぐ強力な広報として存在するだけでなく、例えばアイドルの行動や言動、歌う曲の歌詞などが倫理的におかしいと思われた場合に抗議の声を上げるなど、物申すファンである。その物申す内容に正当性があれば良いのだけど、中には少し度が過ぎる場合もあるようだ。私はアイドルが自分の思う理想のアイドルでいてくれないことに物申さずにはいられないファンにはなりたくない、という意味も込めて、有権者でなく消費者でいたいな…と思ったりした。

 

 K-POPグループは最初から世界へ進出することを前提に育成されていることが多いということが『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』に書かれてあったが、そうさせる韓国社会や文化とはどんな感じなのだろうか、と思って次に読んだのが春木育美『韓国社会の現在』

 読む前から、外需の国であることや少子化がかなりのスピードで進んでいるなどの漠然としたイメージがあったが、具体的に今の韓国がどのような状況にあるのかを端的に教えてくれる一冊だった。2020年8月に発刊された本であり、今読んでおいて良かった。逆に言うと大統領が変わっている来年3月以降にはもう早、本書の内容は古くなっている可能性が高い。

 出生率が1を下回り労働生産人口が減少する中で、アジア通貨危機の経験も相まって男女共に大学の進学率は上昇の一途をたどるも就職率は低く、それによって輪をかけて激化する競争社会に生きる若者たち。こうした韓国の少子化や格差の拡大は日本の先を進んでいて、しかし日本が将来的に辿るかもしれない未来と言っても良いほど、他人事だとは思えない事実が本書の中で続く。

 それにしても日本との違いというか、韓国の特徴とも言うのか、あらゆる社会問題に対して大胆な政策がかなりスピーディに実行されていることに驚いた。例えばキャッシュレスを推し進めるために、クレジットカードの年間利用額が年収の4分の1を超えた分に対して課税所得を20%控除(上限300万ウォン)(のちに控除率は15%にダウン)したり、決済レシートに賞金が当たる宝くじの抽選番号を付与するといった普及促進策など、一方でカード不良債権などの問題がもしかしたら出るかも…?とも思わなくもないが、面白いなと思った。このスピード感は大統領選に再任制度がないため任期中に結果を出さなければならないという焦りがあるからという一面も恐らくあって、十分に検証がなされないままに実行されてしまった政策があることも否めないが、でも「スピード感」はある局面では重要だよな、と思った。

 

 韓国の今を『韓国社会の現在』で概観したあとは、韓国の過去を知りたいと思ったので、次に文京洙『新・韓国現代史』を読んだ。

 歴史をテーマにした本を選ぶ時は私にその内容をよくよく批評する知識がないので、できるだけ中立的な立場で書かれている本を選ぶために買う前にいろいろなサイトのレビューを読むようにしている。実際に読んでみて、本書はそういう意味ではわりとそのイメージに近いような気がした。

 本書では江戸時代の朝鮮通信使から主に日本とどのような関係を結んできたかから始まり、その後脱亜入欧へと加速した日本による植民地支配、第二世界大戦終戦後の米ソによる南北の分割占領、その後の軍事政権から脱却を図るための民主化運動、アジア通貨危機による経済破綻など、朴槿恵大統領政権までの歴史を概観することができる。本書を読むことによって、『K-POP 新感覚のメディア』に書かれていた韓国で共有されているという「恨」(ハン)の感情のルーツの一端を見ることができた気がする。

 良い年になってきてようやく近現代史に興味を持ち始めたのだけど、そうした時にアメリカやロシア、中国に関する知識は欠かせないのだなということを本書を読んで改めて思った。また戦争のタイミングで製品が増産したり輸出が伸びたりして経済が活性化するということについてももう少し知りたい。あと、国が存在する地理的条件はかなり重要なファクターなのだなとも思い、地政学の本を買ったりもした。

 

 ところで目下の私の心配事というか、考えると暗くなってしまうことといえば韓国の徴兵制度である。BTSは未だ誰も兵役へ行っておらず、近い将来おそらく行くであろうと思われる。自分の好きなアイドルグループのメンバーが、方向性の違いなどによる脱退や不祥事の発生以外で欠員するという経験がないので、どうしても"寂しい"という感情が抑えきれないのだけど、兵役が義務として根付いている韓国でそれはどう捉えられているのか、また実際に兵役期間はどのように過ごすのか、知りたくなったので尹載善『韓国の軍隊』を読んだ。

  本書では兵役制度や国防体制のあり方、それが組まれた歴史的背景だけでなく、兵営生活中の訓練内容や隊員の過ごし方、軍隊へ行く前/行った後の若者が語る心境なども書かれている。私はつい送り出す側(親や恋人など)の気持ちで読んでしまったのだけど、入隊初日に軍服が支給され、さっきまで身に付けていた私服を小包で実家へ送るらしく(それは今もそうなのだろうか?)、その小包を握りしめて息子が無事に帰ってくることを祈り続ける時間はどれほど長く感じられるだろうか。少子化で軍隊規模を維持できるか否か、女子に対する徴兵制導入の是非などの議論もあり、兵役のあり方は今後も変化するかもしれないが、送り出す者の苦しみは不変なのだろうと思う。

 全く知らなかったことで驚いたことの一つは、兵役期間が終わった後も約8年間は郷土予備軍として国家非常事態のもとでなされるかもしれない動員に備えて待機しなければならない、ということだ。除隊したらそれで終わりではないの!?という驚きとともに、朝鮮戦争終結したのではなく「休戦」中なのである、ということを実感する。戦時中の被植民地支配、戦後の占領分割から地続きに起こった朝鮮戦争は、韓国にとって「歴史」ではなく「今現在」のものなのだろうと思った。

 

 BTSにハマったがために韓国についての色んなジャンルの本を読んだが、彼らを政治の文脈に組み込みたいわけでは決してなく、ただ彼らが生まれ育った国について知りたくなったのだ。それをきっかけにして地政学アメリ近現代史などにも興味が湧いたので、派生して他の本も読もうと思う。

 

 最後に、新曲『Butter』が最高!!!


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