読んだもの見たもの聴いたもの

本やアイドルが主成分

ドルオタの読書遍歴

 Twitterで「#ジャニオタと読書」というハッシュタグが2年前くらいに少し流行っていたような記憶があって、それを検索しては眺めるのが好きだった。私は物心がついた時からSMAPが大好きで、NHKの朝ドラ「てるてる家族」が始まってからはどっぷり錦戸亮ちゃん、関ジャニ∞にハマり、今に至っているので(そしてSMAPは解散、錦戸亮ちゃんは脱退してしまい絶望の淵にいるのだけど)、アイドルが好きという同じ趣味を持つ人が読む本というものにもとても興味がある。みんな、ブクログ読書メーターなどを利用しているなら、Twitterプロフィール欄にURLを記載してほしい(勝手な願望)。と同時に、読んだ本や読書スタイル、その他もろもろについて語り合いたい。ということで、ジャニオタ兼ハロオタ、いわゆるドルオタである自分の読書遍歴を一方的にまくし立てていきたい。

 

幼少期(就学前)

 娯楽のおもちゃやゲームは一切買ってもらえず、強いて言うなら与えられるおもちゃは全て知育系だった環境で、本を読むようになるのは自然の流れだった。幼稚園から毎月支給される(そしてそれは恐らく月謝代に含まれていたんだろう)絵本があり、それを毎月毎月楽しみにしていた。そして家に帰ってから夢中で読んでいたのは、小学館の雑誌おひさま

おひさま 2018年 02 月号 [雑誌]

おひさま 2018年 02 月号 [雑誌]

 

 私が読んでいたころは月刊雑誌だったが、残念ながら途中で隔月刊となり、2018年2、3月号をもって休刊してしまったらしい。

正直内容はあんまり覚えてないが、とにかくこれを読んでいる時が楽しかった。印象的だったのは「なんぎなたんけんたい」や「ちびねこ」。「ちびねこ」は作者が大島弓子さんだなんて、当時は全く知らなかったし意識もしてなかった…!

 

小学生時代

 毎日通う学校に図書室がある、労せずとも本が読める、ということに万歳していた日々。また私の家には上にも書いた通りゲームなどの娯楽がほとんどなく、かつ夜の9時にはテレビのない寝室へ強制送還されていたので、本を読む以外にやることがなかった。そこでまずハマッたのがさくらももこさんのエッセイ。

あのころ (集英社文庫)

あのころ (集英社文庫)

 

  母親がさくら先生の本をたくさん持っていたので勝手に拝借して読んでいたのだが、活字を読んでこんなに大爆笑できることがあるんだという驚きが大きかった。「あのころ」など小学生時代シリーズはアニメちびまる子ちゃんにも出てくる話があって楽しかったし、「もものかんづめ」など大人になってからの話ではアニメとのギャップもあって面白かった。アニメでは仲良しのおじいちゃんと本当はそうではなかったことがよく分かる「メルヘン翁」は一部不謹慎という声もあるかもしれないが、私はさくら先生の冷静な観察眼と皮肉のきいたユーモアが冴え渡っている傑作エッセイだと思っている。その他にも「ももこのいきもの図鑑」や「ひとりずもう」なども面白かった。

 

 母親の本棚はエッセイが豊富だったということもあって私もたくさん読んだが、中でも何度も何度も読んだのは黒柳徹子さんの「窓ぎわのトットちゃん」

窓ぎわのトットちゃん (1981年)

窓ぎわのトットちゃん (1981年)

 

  電車の教室、自分で自由に決められる時間割、海のもの山のものが入ったお弁当、子供の自分を一人の人間として尊重してくれる小林先生…こんな環境で学びたいという憧れが詰まった、黒柳さんの小学生時代の話。きらきらとした小学生生活に影を落とす戦争に、幼いながらに暗澹たる気持ちになったことも覚えている。

 

 上2つはエッセイだが、メインで読んでいたのはやっぱり小説だった。ダレン・シャンシリーズ、ズッコケ三人組シリーズなど、片っ端から読んでいたが、小学4年生の時に担任の勧めで読んで大好きになったのはミヒャエル・エンデの「モモ」だった。

 まず、函入りの本ということに興奮。この重量感、特別感。しかも、長い、文字が多い…!小学4年生の自分にとっては読む前、大物にとりかかる感があってとても良かった。経済発展、テクノロジーの発展の陰で大人たちが失っていくものを無垢すぎるくらいに無垢なモモがしっかりとした眼差しで見ている。大人になった今、合理化、効率化ばかりを追求して日々あくせく働いてる自分は、当時「モモ」を読んでこんな大人になりたくないなぁ…とぼんやり感じていた姿そのものである気もする。今こそモモに話を聞いてもらいたいが、当時はそんなことは何も思わず、時間どろぼうから時間を取り返すための冒険譚としてワクワクして読んでいた。

 

 余談だが、小学校の図書室では飽き足らず地元の図書館でも大量に本を借りており、自転車の前かごに本を積みすぎてその重さにバランスを崩し、派手に転んだことも数回…。

 

中高生時代

 この頃は国語の教科書が面白かった。4月に支給された教科書を、まずは一気読みしていた。なかでも好きだったのは、横光利一の「蠅」

蠅

 

※ネタバレを含みます。

 季節は真夏。馬車をひく馬の背に止まる一匹の蠅。乗客たちと蠅を乗せた馬車はどんどんと道を進んでいく中、どうやら馬車の様子がおかしい。あ、というその刹那、車輪が道から外れ馬車は乗客もろとも崖から落下。原因は馭者の居眠りだった。落ちていく乗客たちを見ながら、蠅だけは自分の羽で馬上を離れ空高く飛んでいく、という描写でこの小説は終わる。それ以上でも以下でもない。

 初めて読んだ時、このあまりのキレッキレさにぼーっとしたのを覚えている。社会的ヒエラルキーでは上等の人間と下等の蠅が、死の間際でその立場を反転させる鮮やかさと、人の死は予想もしないところに突然訪れるという不条理さが、言葉少なに、とてもクールに書かれている。横光利一かっこいい…!

 

 こうして教科書を楽しんで読んでいたのは事実だが、実のところ中高生時代は家で本を読むということはほとんどなかった。物心ついた頃から小学生まではあんなに毎日本を読んでいたのに、それはなぜか。原因は小学生時代までずっと課せられていた夜9時寝室強制送還ルールが解除となったからだ。中学生になってから、人生で初めてテレビドラマを見た。深夜バラエティーを見た。ネットサーフィンをした。小学生時代からの反動が大きすぎたからか、それらは驚くほど新鮮で刺激的で面白かった。それまではクラスのみんながごくせんやトリビアの泉の話をしていても全くついていけなかったのに、学校で前日見た一リットルの涙やラストフレンズの話をすることがなんと楽しいことか…!かくして私はどっぷりとテレビ、ネットの世界に潜っていったのである。

 

大学時代

 こうして読書から離れた中高生時代を過ごし、大学入学を控えた春休み。ふと6年間を振り返ってぞっとした、あまりに何も覚えていないことに。もちろんテレビやネットも面白いし良い面もある。だが小さい頃読んだ本のことは覚えているのに、中高生で見たテレビのことは思い出せない。自分の中に何かが蓄積されたという感覚がまるでない。そのことにショックを受けた。これではダメだ、大学ではたくさん本を読もうと心に決めた。そして実際に平均して月に20冊前後、年間200冊近く読むようになった。我ながら極端だが、そういう性格なので仕方がない。

 

 まず大好きになったのは筒井康隆である。もともとビーバップハイヒールにカシコブレーンとして出演しているイメージだったが(関西の人にはお馴染みか)、映画「時をかける少女」が大好きだったので原作も読もうと手に取ったことがきっかけだった。そこから色々と読み始め、そのあまりの変態性に読んでいる最中アドレナリンが放出するというか、興奮するというか、とにかく「ヤバイものを読んでいる…!」という感触が堪らない。中でも大好きなのは、「残像に口紅を」!!

残像に口紅を (中公文庫)

残像に口紅を (中公文庫)

 

 五十音の文字が一つずつ世界から消えていく、その文字を使う言葉も消える、そしてその言葉に関する記憶も消失する。例えば「ほ」が消えたら「本」も無くなるし「本」にまつわる記憶もなくなる。どんな設定!?ヤバイな!?と語彙力を失ってしまう面白さ。そして何がすごいかって、文字が消えていくにしたがって使える言葉が当然に減っていくにも関わらず、その消失を感じさせない筒井先生の豊富すぎるボキャブラリーと筆圧。脱帽。終盤は本当に限られた文字だけで構成されているのだが、グルーヴ感があってノリノリで読み進めてしまう(アドレナリン大放出)。

 実験的な小説だったら「朝のガスパール」、「虚人たち」、SFなら「パプリカ」、あと「大いなる助走」や「巨船ベラス・レトラス」も面白いし、短編もキレッキレ。特に「ヨッパ谷への降下」に収録されている「あのふたり様子が変」が大好き。タイトルからオカルト風味な話かと思いきや、家族に隠れてセックスする場所を探すといううんと俗な展開でとても面白く読み進めるも、ラストで予想できない結末に急にスッと肝が冷え、途中とはガラリと印象の変わるお話。短編の妙を感じられる。他にも「」とか「ロートレック荘事件」とか、たくさんおすすめしたい作品があるが、キリがないのでやめておく。

 

 また、大学生だし文豪の作品も読んでおかなければ、と思い始めたのもこの頃。とはいえ読んだ作品数はとても少ないが、私の推し文豪は圧倒的に谷崎潤一郎。筒井先生然りだが、たぶん私は変態性の強い作家が好きなのだと思う。堪らないよね…。なかでも好きなのは、「」。

卍(まんじ) (新潮文庫)

卍(まんじ) (新潮文庫)

 

  柿内園子が作者に告白するという形式をとった物語。夫持ちの園子が光子と同性愛を育む一方で、光子に異性の恋人・綿貫ができた辺りから話は深みへとはまっていき、最後はまさかの展開。ストーリー展開の妙とテンポの良さがすごくて、本当に面白かった。奔放で妖艶な光子の魅力に抗えない人達が疑心暗鬼になったり苦しんだりする様子は凄まじく、濃密な物語だ。他にも、「痴人の愛」や「春琴抄」がとても好き。

 

 他にも、森鴎外の「ヰタ・セクスアリスも好き。

ヰタ・セクスアリス (新潮文庫)

ヰタ・セクスアリス (新潮文庫)

 

  哲学講師の金井くんが、ある時こう思い立つ。

おれは何か書いて見ようと思っているのだが、前人の足跡を踏むような事はしたくない。丁度好いから、一つおれの性欲の歴史を書いて見ようかしらん。実はおれもまだ自分の性欲が、どう萌芽してどう発展したか、つくづく考えて見たことがない。一つ考えて書いて見ようかしらん。

この時点でもう面白い(私は)。そして実際に、とても冷静に、淡々と、自分の性欲の目覚め、初体験などを見つめ返し、描いている。それには現代の人々となんら変わらないような体験もあれば、明治の性風俗ならではの体験もあり、とても興味深かった。

 

 文豪の作品というと文庫裏のあらすじで例えば「白樺派の~」とか文学論に触れているものも多く、それはそれで意義があるとは思うが、やっぱりどうしても敷居が高く感じられてしまう。でも実際読んでみると川端康成の「みずうみ」は教え子をストーキングする男の話だし、田山花袋の「蒲団」は去っていった弟子(美少女)が忘れられず彼女の使っていた蒲団をくんかくんかする話だし、武者小路実篤の「お目出たき人」は何度も「自分は女に飢えている」と繰り返す主人公の勘違い大爆走片想い話であり、とても読みやすいしブッ飛んでいて古臭さはまるでない。なので裏のあらすじの厳めしさに怯まず、これからも挑戦していきたいジャンルである。

 

 あと、大学時代は海外文学に目覚め始めた頃でもある。きっかけは桜庭一樹さんの読書日記シリーズ。これは私にとって一番のガイドブックであった。

書店はタイムマシーン―桜庭一樹読書日記

書店はタイムマシーン―桜庭一樹読書日記

 

  その名の通り読書日記であり、桜庭さんの膨大な読書量がうかがえるシリーズ。ここに出てくる作品がどれもこれも面白そうで、読みたいリストが膨らんでしまうので困ってしまうシリーズでもある。紹介されていた中で私が好きだったのは、B.S.ジョンソンの「老人ホーム 一夜のコメディ」

老人ホーム―一夜のコメディ (海外文学セレクション)

老人ホーム―一夜のコメディ (海外文学セレクション)

 

  入居者八人と寮母の心情や発話を同時進行で描いた実験的小説。入居者それぞれ、痴呆の進行具合や運動能力は様々だけど、嫉妬や憎悪の感情、性欲だってある。いつまでも良くも悪くも人間的であるのに、正直に言うとそういったどろどろとした感情に少しぞっとした自分がいて、私はどこか老人を聖人視していたのではないかと思い反省した。そして一番恐ろしいのは入居者を支配していると思い込んでいる独裁者寮母。この小説は狂っている。劇薬注意。

 

 また、海外文学を読み始めて得た大きなものは、翻訳者岸本佐知子さんとの出会いだ。

↓最高に上品で愉快なテレフォンセックスの話。

popeyed.hatenablog.com

 

 ↓岸本さん編訳。物理的な閉塞感と、「もう逃げられないのだ」という精神的な閉塞感の両方に打ちのめされて、脳からサーッと冷えてくる感覚が味わえる短篇集。ジュディ・バドニッツの「来訪者」ジョイス・キャロル・オーツ」の「やあ!やってるかい!」が特に好き。

居心地の悪い部屋

居心地の悪い部屋

 

  岸本さん翻訳作品に外れなしと信頼しているのだが、岸本さんはエッセイも抜群に面白い。

気になる部分 (白水uブックス)

気になる部分 (白水uブックス)

 

 もう少しで新刊エッセイ「ひみつのしつもん」も発売されるよ!楽しみ!

 

 大学時代はこうして手広く何でも読んでいた。綿矢りさ川上未映子本谷有希子穂村弘イアン・マキューアンなど。大学生協の書店では感想文を10冊分書いて提出すれば500円の図書カードが貰えるというシステムが確かあったように記憶していて、だいたい毎月1,000円分の図書カードを貰っていた気がする。今思えば厚かましい気もするが、その分その生協書店で大量に本を買っていたので許してほしい。

 

社会人以降、現在

 社会人になってから、やはり読書量は減ってしまった。とらなければいけない資格もたくさんあるし、休日出勤をすることもある。ラッシュ時の電車では本も読めず、そもそも疲れていて文字を追う集中力が足りないこともある。ただ大学時代と違うのは、お金があるという点である(※自分比)。文庫本だけでなく、単行本も買うようになり、積読本が増える一方だ。社会人になってから読んで面白かった本は以下。

 

↓世間に広まる禁煙の波と少子化により貴重な子どもへの手厚い保護。絶対的に自分が正しいと思っていてそこに何の疑いも持っていない人たち(もしくはそのような世論)の暴力性。

幼女と煙草

幼女と煙草

 

 ↓狡猾に戦略的に、そして時に暴力的にじわじわと人々を支配していく主人公コンラッド。反抗的な者を周到に片付けながら周囲の人々に自分を慕わせていく手際の良さと、主従関係の逆転の境目が綺麗なグラデーションになっている不気味さ。

料理人 (ハヤカワ文庫 NV 11)

料理人 (ハヤカワ文庫 NV 11)

 

 

 今は少ないながらも毎日本を読む時間は取り続けている。一生追いかけたい作家の中に今村夏子さんが新たに加入したり、村田沙耶香さんの作品がキレッキレで最高だったり、ガルシア=マルケスなどラテンアメリカ文学ももっと読みたいなぁと思ったり、最近では韓国文学がアツそうなので気になったりしているので、もっといっぱい本が読みたい。