読んだもの見たもの聴いたもの

本やアイドルが主成分

本の息遣いが聞こえる 『古本道場』角田光代・岡崎武志

 

古本道場 (ポプラ文庫)

古本道場 (ポプラ文庫)

 

 

 岡崎武志さんを古本道の師として仰ぐ弟子の角田光代さんが師匠から出される課題をクリアするため、古本屋を巡っていく古本エッセイ。岡崎さんの著作といえば以前に読んだ『読書の腕前』という読書にまつわるエッセイが非常に面白く、読書欲にさらに火をつけられた記憶がある。その他にも『蔵書の苦しみ』を出されており(未読なので読みたい)、岡崎さんは読書家、古本通として有名な方。

 

 そんな岡崎さんを師事する角田さんも私からすれば本についてとても博識で、古書についても私なんかより詳しいだろうにもかかわらず(実際は比べるのもおこがましいくらい)、角田さんは自分の無知を認め、敬意と謙虚さをもって一つ一つの古本屋、そこにある古書、そこで働く店員と出会っていく。だからか、古書に疎い私と角田さんが同じ弟子仲間であるという幸せな錯覚を起こすことができ、親しみを感じて読み進められた。

  とはいえさすが角田さん、非常に優秀な弟子であって、みるみるうちに古本道を極めていく。目当ての本を探す楽しみを感じることから始まり、古本屋を巡れば巡るほどにアンテナが鋭くなり、各古本屋で購入する本たちが不思議と何らかのつながりを持っていくことや、土地柄の違いによっては同じ本にも違う値段がつくことに気づくところまでめきめきと成長していく。

 

 それを受けた角田さんは、

本は、消費され、忘れられ、消えてしまう、無機質な物質ではなくて、体温のある生きものだと実感できて、私は何かほっとしたのである。 

と 言っている。古本屋の雰囲気、本の佇まいから以前の持ち主たちに愛されてきた本であると感じたり、作家の出身地ではその人の著作が他の土地の古本屋より高値で売られているなど、その土地柄や店主の思いが本に反映していることに気づいたりした角田さんの文章からは、確かに本は生きものであると感じることができた。本には書いた人、売る人、買って読む人、次の読者へと本を繋ぐ人たちの気持ち、愛情が反映するのだ。

 

 古本屋というと少し堅物そうなおじさんが一人座っていて入りにくい…とかつてはそう思っていたけど、本に悪影響が及んだり他のお客さんに迷惑がかかったりするようなマナー違反をせず、本について知ったかぶりなどせずに素直になれば、同じ本好きとして温かく迎え入れてくれることは、大学生になって古本屋へ行くようになってから知った。それ以来私は少し埃っぽい古本屋の匂いが好きだし、新刊より安く買える、絶版した本が買える、本の間に思いがけないものが挟まっていることがある(私はラブラブのカップルが写った結婚披露宴の招待状に出くわし、何となく切なくなったことがある)、などの古本ならではの良さもあるので、これからも古本屋へは足を運ぶだろう。それでも私の古本屋さんの楽しみ方は角田さんに遠く及ばないので、岡崎さんの弟子である角田さんに弟子入りしたいと思う。古本道で大切な、謙虚さを忘れずに。

 

 

関連本

 冒頭に書いた『読書の腕前』も面白い。

読書の腕前 (光文社知恵の森文庫)

読書の腕前 (光文社知恵の森文庫)

 

  読書の効能や積読のススメ、古本屋の面白さなど、読書について余すことなく語っておられるのでとても楽しかった。

 

 古本屋、古本についてはこれらも。

本棚探偵の回想 (双葉文庫)

本棚探偵の回想 (双葉文庫)

 

  とても良い意味でくだらない試み(古本トレカを作ったり、神保町の各古書店で必ず1冊買ったりなど)をたくさんしておられて、喜国さんの古本への愛情の深さに恐れ入るばかり。

 

  こちらは古本屋で働く人側からの視点を知ることができて面白かった。

 

 その他の古本屋にまつわる本として、田中栞さんの『古本屋の女房』が読みたいなぁと思っている。